・着弾した重い打撃の数(有効打数)
判定での加点要素となる6つのうち、もっとも重要なものは一番上に記載してある
・着弾した重い打撃の数(有効打数)です。
ちなみにこの有効打の定義なのですが…
前ページで【各加点要素 詳細】に書いてあるとおり、まずスタンディング(ニュートラルポジション)状態で着弾した打撃の大半は有効打とカウントされる傾向があります。
しっかり対戦相手の体に当たっていれば、相手へのダメージの大きさはほぼ問われません。
それはローキックで足の先 っちょが ペチンとかすっただけでも有効打。
相手の腕のガードの上から当たったミドルキックも有効打。
オデコにちょこんと当たったパンチでも有効打になります。
つまりUFCの判定の際、もっとも重要な加点要素である『有効打数』は、ガイドラインにはlegal heavy strikes landed(着弾した重い打撃の数)と記載されているものの、必要とされる〝重さ〟のハードルはだいぶ低いモノとなってるわけです。
そしてさらにクリンチ・グラウンド状態については、それが優位なポジションにいるファイターからの比較的強い打撃については有効打としてカウントされます。
・成功したグラップリングテクニックの数
UFCの採点基準で、有効打と並び大きな加点要素になるのがこの「成功したグラップリングテクニックの数」です。
具体的に加点対象となるグラップリングテクニックは以下の4つです。
・テイクダウン(対戦相手を転ばせる)
・パスガード (寝技でより良いポジションに移行する)
・スイープ (グラウンドで下だった選手が上下逆転させる)
・サブミッション (締め技、関節技)
このうちテイクダウン、パスガード、スイープの3つについては成功した数での加点になりますが、サブミッションはアテンプト(試み)だけで加点となります。つまりフィニッシュに至ったか否かに関わらず、タップを奪えるレベルまでしっかりと形に入った関節技・締め技は加点の対象となります。
ちなみにですが、テイクダウンが成功としてカウントされるためには、相手を転ばせたあと、最低でも1秒ほどグラウンドで上の状態にならなければいけません。
タックルで相手にしりもちをつかせたけど相手の上になる前にすぐたたれてしまった場合、ノーカウントとなります。
・着弾した全打撃の数
着弾した全打撃の数=有効打数+非有効打の合計となります。
有効打は説明したとおりですが、『非有効打』とはなんでしょう?
先ほど言ったとおり、スタンディングでヒットした打撃はそのほとんどが有効打=着弾した重い打撃の数、にカウントされます。
さらにクリンチ・グラウンド状態で優位なポジションからの打撃については、それが比較的に強い打撃であれば有効打としてカウントされます。
それに対し『非有効打』とは上記に含まれない打撃、つまり着弾はしているけど「ダメージが期待できない打撃」のことです。
例えばグラウンドのガードポジションから選手同士が身体を密着させた状態で相手の側頭部をコツコツと打っているシーンをよく見ますよね。
もしくはフェンス際で密着したクリンチ状態からのパンチ、および膝蹴り。
グラウンドでもクリンチでも、身体が密着した状態からでは腰の入った打撃が打てないため大きなダメージは望めません。
こういった打撃は仮に着弾しても有効打にカウントされず、『非有効打』としてカウントされます。
非有効打は当然の ことながら、判定の際の加点の割合いは有効打よりも下位です。
但しグラウンド状態でもクリンチ状態でも、優位なポジションにいる側が強打できる体勢をしっかりと作り出してからドカンと打つパンチや膝蹴りは有効打とカウントされます。
逆にコントロールされている側、例えばガードポジションで下になってる側が相手の頭部にガツンガツン強力なヒジ打ちをしても、それは非有効打としてカウントされることが多いです。
つまり有効打か非有効打かの判断は命中したその打撃の威力・ダメージより、打つ際の相手との相対的な体勢が主な判断材料ということになります。
・打撃ディフェンス
前頁で、打撃ディフェンス=打撃回避率。敵の空振り÷(敵の空振り+敵の有効打)
と記載しましたが、このディフェンスはガイドラインの原文では打撃を回避(avoid)することを指し示しています。
なので仮に敵の打撃を腕で防御(guard)してもそれは着弾とみなされてしまいます。
つ まりUFCにおける打撃ディフェンスとは『敵の打撃をどれだけ空振りさせられるか』の能力ということになるわけです。
逆に言うと、もし自分が空振りをした場合は対戦相手に打撃ディフェンスの加点を許すことになるわけで、つまりこのガイドラインに沿ったUFCという戦場ではうかつに空振りさえできないということになります。
UFCでは判定での勝敗に〝手数〟が大きく影響しますが、その手数もあくまで当ててナンボというわけです。
ちなみにこの打撃ディフェンス率を計算で出すの際には、命中 or 回避の白黒が曖昧な『非有効打』は数から除外されます。
・コントロール
グラウンドで上になっている状態、もしくはクリンチで敵をフェンスに押し付けてる状態は相手より優位なポジションであり、『相手をコントロールしている』とみなされ、その経過時間に比例して加点がされます。
実はこのコントロールと言う加点要素を理解することがUFCの試合観戦を楽しむ上では重要なポイントになります。
というのも、本来はグラウンドでのこう着やフェンス際のクリンチしている状態は観ている方からしたら退屈なものです。
しかしUFCの採点基準では、この状態でも毎秒ちょっとずつではありますがコントロールしている側にポイントが加点され続けている訳です。
だからこそ、ポジションで上になったファイターはその体勢をキープしようとする。一見、消極的な闘いに見えるこう着状態も、UFCにおいては積極的に加点が生み出されている時間と言えるでしょう。
尚、各ポジションの優位度は下記の通り、下に行くほど優位となります。
(優劣なし)
↓ニュートラル … スタンディングで離れている状態
↓クリンチコントロール … スタンディングで相手を金網に押し付けながら密着している状態
↓インサイドガード … グラウンドで相手の両脚に挟まれる形で上になっている状態
↓ハーフガード … インサイドガードから片足だけ相手の両脚から外に出せた状態
↓サイドポジション … ハーフガードからさらに片足を抜き、体同士が十字に交差するように上を取っている状態
↓マウントポジション … サイドポジションから相手の胴体をまたいで、馬乗りになった状態
↓バックポジション … 相手の背中側から胴体をまたいで、馬乗りになった状態
(優位)
・テイクダウンディフェンス
UFCでは敵からテイクダウンを防御することで加点となります。
計算方法は
(被テイクダウン数)÷(敵のテイクダウンチャレンジ数)となります。
これはつまり自分から下手にテイクダウンをチャレンジして、もしそれが失敗した場合はそれだけで対戦相手の加点になってしまうことを意味します。そういう点においては二つ前の打撃ディフェンスと同じく、 テイクダウンについても空振りのリスクは十分にあるわけです。
・上位と下位の加点比率
---------------------------------------------------------------------------
●着弾した重い打撃の数[打撃]
●成功したグラップリングテクニックの数[組技] ↑上位の加点要素
---------------------------------------------------------------------------
●着弾した全打撃の数[打撃] ↓下位の加点要素
●打撃ディフェンス[打撃]
●コントロール[組技]
●テイクダウンディフェンス[組技]
--------------------------------------------------------------------------
上位2つの加点要素が下位の4つと比べ、判定の際により重要視されることはガイドラインにも記載されてます。
但しその具体的な加点比率、つまり上位と下位でどれくらい扱いに差があるのか、については特にガイドライン内に明記している部分があるわけではなく、UFC公式HPの中にもその比率を示唆するような部分はありません。
ですがこの比率を決定しないことには最終的ファイター戦力を1つの数字で確定することができないため、キカワメトリクスUFCでは
上位の加点要素の合計:下位の加点要素の合計=2:1 と規定します。
・打撃と組技の加点比率
加点要素は大きく分けて
[打撃](ストライキング)
[組技](グラップリング)
の2つの属性に分かれます。
そして打撃と組技の加点比率はスタンディングとグラウンドの時間比率に準じます。
つまり[打撃]に属する加点要素、
●着弾した重い打撃の数
●着弾した全打撃の数
●打撃ディフェンス
の3つはスタンディングの時間が長いほど加点比率が高くなり、
[組技]に属する加点要素、
●成功したグラップリングテクニックの数
●コントロール
●テイクダウンディフェンス
の3つはグラウンドの時間が長いほど加点比率が高くなるというわけです。
具体的に例を上げます。
例えばA選手 VS B選手の対戦があったとして
A選手のそのラウンドの加点が
有効打 30
テイクダウン 1
サブミッション 0
パスガード 2
B選手のそのラウンドの加点が
有効打 15
テイクダウン 2
サブミッション 1
パスガード 3
だったとして…
この2人の数値を属性別に比べてみましょう。
打撃属性(有効打)ではAがBの2倍、加点を稼いでいます。
逆に組技属性(テイクダウン・サブミッション・パスガード)ではBの加点の合計はAの2倍です。
双方ともに自分の得意属性で相手の2倍の加点を稼いだわけです。
それではこのケースで判定になった場合、どちらが勝利となるのか。
それを決めるのが
「スタンドとグラウンドの時間比率」になります。
UFCの1ラウンドは5分なのでもし仮に時間比率で「スタンド:グラウンド=1:1」の場合、
つまりスタンドもグラウンドも2分30秒ずつだったとした場合…AとB、双方の打撃・組技のリードが相殺され、このラウンドはドローということになります。
ではこの時間比率が仮に「スタンド:グラウンド=2:1」の場合どうなるか?
加点比率は打撃が組技の2倍になるため、このラウンドはAが勝利。
逆に時間比率が仮に「スタンド:グラウンド=1:2」の場合、加点比率は組技が打撃の2倍になるため、このラウンドはBが勝利となります。
さらに詳しい計算方法についてはファイター戦力計算方法のページに記載しますね。
・ノックダウンは判定の優劣に影響しないの??
実はニュージャージー州アスレチック・コミッションのガイドラインの中の加点要素の中に〝knock down(ノックダウン)〟の文字は入ってません。
このガイドラインが定める判定の際の加点要素の中で、最もウェイトの高い加点要素として〝有効打〟が挙げられていますが、実は仮に対戦相手のノックダウンを得た強烈な打撃であってもあくまでこの有効打の1発でしかないという扱いになります。
これは日本人感覚、特にK1やPRIDEを見てきた私たち日本人には奇異に見えることでしょう。
一般的なモノサシで見ると、格闘技は殴り合いのスポーツなので判定の際にノックダウンこそがなにをさておき最優先事項になるだろうと感じるはずです。
実際に相手への目に見えるダメージがそこにあるわけですから。
しかしUFCでは仮にノックダウンを奪ってもそれはあくまで有効打の1つ。
ローキックで足のさきっちょがペチンと当たるのや、ジャブが軽く相手のオデコに当たったのと同じ扱いになってしまうんです。
実はこの判定基準はアマチュアボクシングと似ています。
相手に着実にヒットさせた手数を重視するアマチュアボクシングは、ダメージ重視のプロボクシングとはの判定基準で大きな違いがあるわけですが、UFCもアマチュアボクシングと同じような判定の価値基準を持っていることになるわけですね。
とはいっても、ノックダウンを奪えた状態というのは、この上ない追撃チャンスでもあります。
倒れた相手へのパウンド連打で有効打を重ねることも、逆にテイクダウン→パスガードでグラウンドでの加点を稼ぐこともできるわけですから。
そういった意味では結果的にみるとノックダウンを多くとったファイターがそのラウンドの勝者になるケースが大半となります。
・テンポイントマストシステム
テンポイントマストシステムについては前頁で
両者で全くの互角の場合、10-10
片方が僅差で勝利の場合、10-9
片方が圧倒している場合、10-8
片方が完封している場合、10-7
というように表記しました。
しかし実は判定の際、95%以上のスコアリングが10-9となります。
ドローの10-10や10-8がでることは稀で、10-7なんてスコアがつくことはほとんどないと言っていいでしょう。
説明してきたとおり、UFCにおいては優劣はラウンド毎に分けて考えられます。
だから試合が判定にもつれ込んだとき、このラウンドは獲った、このラウンドは獲られた、などという表現をするわけです。つまりあくまで各ラウンドは別個に判定され、そして幾つのラウンドを獲ったか、ということで競い合うのがUFCの判定における基本概念なわけです。
だから仮に全5ラウンドを戦ったとして、前半3つのラウンドをAがどれもきわどい僅差で勝利、後半2つのラウンドはBが一気に逆転してだいぶ明確な差で2つとも勝利したとします。
こういう試合をした時は試合を見てる人のほとんどがBが勝った、と思いがちです。
実際に僅差の加点なんてほとんど見てる側からしたら差として感じませんし、特に試合前半よりも後半のほうを重要視してしまいがちです。なぜなら、もし仮にそのあと第6.7ラウンドと続行していたとしたら、後半押してたBがもしかしたら相手をKOしたんじゃないか、と感覚的に思ってしまうからです。
しかしUFCの判定では、こういった場合は単純に5つのラウンドのうち3つを獲ったAが勝利、ということになります。
なぜなら、もし本当に6.7ラウンドと続行していたとしてもそのままBがAを圧倒していたという保証はありません。実際に1~3ラウンドはAが優勢だったのに4.5ラウンドは逆転してBが優勢になったわけです。となれば、続く6.7ラウンドはまた逆転して今度はAが優勢になる可能性もあるわけです。
つまり、もしこのあとまだラウンドが続けられてたら、という仮定の話は無意味、単純に今までのラウンドを1つでも多く獲ったほうがその試合の勝利者、と言うのは妥当な判決なわけです。
なので仮に10-8というスコアリングをつけることはこのUFCにおける判定の概念をひっくり返すことになりかねません。
となれば、10-8をつけるということはよほど片方が相手を圧倒している場合のみ適用されるというわけです。
それでは実際に上記のことを証明するような例となる試合を挙げてみます。
ニール・マグニーとケルヴィン・ガストラムの試合です。
前述した例のように、前半3ラウンドをマグニーが押してて、そして4.5ラウンドで逆転、今度はガストラムが猛攻を見せ、試合はタイムアップ。
判定となり、勝者は1.2.3ラウンドを獲ったマグニーでした。
しかし現役UFCファイターの中にもこの判定に対して意外だったとインタビューで答えている声が複数ありました。
多かったのが第4ラウンド、2度のノックダウンを奪ったガストラムに10-8のスコアを着けてもいいんじゃないか、という声です。
ちなみに下が問題の第4ラウンドの公式HP結果データです。
ニール ケルヴィン
マグニー VS ガストラム
WINNER 試合結果
第4R
0:18 コントロール 2:39
0 ノックダウン 2
6 全打撃数 24
6 有効打 10
of 24 of 26
25% 38%
0 テイクダウン 0
of 1 of 0
0% 0%
0 サブミッション・アテンプト 0
これを見ると、確かにガストラムが2度のノックダウンを獲っています。ひとつのラウンド内で2つのノックダウンがあると片方が圧倒している印象は非常に強くなります。実際、全ての数値においてガストラムのほうが上回っています。ただ問題はこれが10-8のスコアをつけるほどの差かどうか、と言うことです。
前に述べたとおり、UFCにおいて「ノックダウン数」は最も重視するポイントではありません。仮にノックダウンを奪った打撃でもあくまでそれは有効打の1つに過ぎません。
但し、ノックダウンを奪った際、パウンド(グラウンド上位からの顔面パンチ)などでより多くの有効打を奪えるチャンスは生じるわけです。
両者の全打撃数の数値を見てみても6-24とだいぶ差があるのがわかり、このダウンで生まれたチャンスにガストラムが打撃を相当数打ち込んだことがわかります。
ただ、有効打の数を見ると6-10とあまり差がないのがわかります。
これはつまりガストラムがせっかく2度もノックダウンによるチャンスを得たにもかかわらず、そこで打てた打撃はほとんどが非有効打と判定されたことを意味しています。
判定の際、最も重要視される加点要素、有効打でたった4しか差がない以上、たとえダウンが2つあったとしても10-9のスコアリングが妥当だと判断されたわけです。
では次にその反対、10-8とスコアリングされたある試合のあるラウンドを例に挙げたいと思います
ニコラス ダレン
ダルビー VS ティル
DRAW 試合結果 DRAW
第3R
2:49 コントロール 0:07
0 ノックダウン 0
78 全打撃数 9
61 有効打 9
of 100 of 20
61% 45%
2 テイクダウン 0
of 3 of 2
67% 0%
0 サブミッション・アテンプト 0
この試合は全3ラウンド中、ある程度の差をつけて試合をリードをしていたティルが1.2ラウンド共に10-9で獲り、そして続く3ラウンド目で逆転。ダルビーの猛攻で圧倒的な差をつけてのタイムアップでした。
結果的には3ラウンド目は10-8のスコアがつけられ、判定は28-28のドロー。3ラウンド中2ラウンドを先取したティルからしたら通常ならフィニッシュされなければ勝利、という状況でまさかの引分判定となったわけです。
ちなみにこのラウンド、ティルが受けたノックダウン数は0。
先ほど例に挙げたマグニーVSガストラムの4Rはノックダウン数が2なのに判定は10-9だったのに対して、ノックダウン数が0のこのラウンドに10-8のスコアがついた理由はまぎれもなく有効打、および成功させたグラップリングテクニックの数の影響でしょう。
有効打数を比べると、61:9とダルビーが結果的に数倍になってるのがわかります。
そしてダルビーが着弾させた全打撃数78のうち、有効打61。この割合も先ほどのガストラムに比べるとはるかに高く、ダルビーが追撃のチャンスをしっかり有効打で着弾させていることがわかります。
この2つの例を見比べてわかるとおり、判定のスコアリングで10-8がつくためには、判定でもっとも重視される加点要素の有効打+グラップリングテクニックでこれくらいの差がないとつかないということですね。